城あとのおおばこの実は結び、赤つめ草の花は枯れて焦茶
色になって、畑の粟は刈りとられ、畑のすみから一寸顔を出
した野鼠はびっくりしたように又急いで穴の中へひっこむ。
崖やほりには、まばゆい銀のすすきの穂が、いちめん風に波
立っている。
 その城あとのまん中の、小さな四っ角山の上に、めくらぶ
どうのやぶがあってその実がすっかり熟している。

 宮沢賢治「マリヴロンと少女」より
安比高原の「ウラサキツメクサ」
作品ID1922

 マリヴロンは思わず微笑わらいました。
「ええ、それをわたくしはのぞみます。けれどもそれはあなたはいよいよそうでしょう。正しく清くはたらくひとはひとつの大きな芸術を時間のうしろにつくるのです。ごらんなさい。向うの青いそらのなかを一羽のこうがとんで行きます。鳥はうしろにみなそのあとをもつのです。みんなはそれを見ないでしょうが、わたくしはそれを見るのです。おんなじようにわたくしどもはみなそのあとにひとつの世界をつくって来ます。それがあらゆる人々のいちばん高い芸術です。」
「けれども、あなたは、高く光のそらにかかります。すべて草や花や鳥は、みなあなたをほめて歌います。わたくしはたれにも知られずおおきな森のなかでちてしまうのです。」
「それはあなたも同じです。すべて私に来て、私をかがやかすものは、あなたをもきらめかします。私にあたえられたすべてのほめことばは、そのままあなたにおくられます。」
「私を教えて下さい。私を連れて行ってつかって下さい。私はどんなことでもいたします。」
「いいえ私はどこへも行きません。いつでもあなたが考えるそこにります。すべてまことのひかりのなかに、いっしょにすんでいっしょにすすむ人人は、いつでもいっしょにいるのです。けれども、わたくしは、もう帰らなければなりません。お日様があまり遠くなりました。もずが飛び立ちます。では。ごきげんよう。」
 停車場の方で、するどふえがピーと鳴り、もずはみな、一ぺんに飛び立って、気違きちがいになったばらばらの楽譜のように、やかましく鳴きながら、東の方へ飛んで行く。
「先生。私をつれて行って下さい。どうか私を教えてください。」
 うつくしくけだかいマリヴロンはかすかにわらったようにも見えた。また当惑とうわくしてかしらをふったようにも見えた。
 そしてあたりはくらくなり空だけ銀の光を増せば、あんまり、もずがやかましいので、しまいのひばりも仕方なく、もいちど空へのぼって行って、少うしばかり調子はずれの歌をうたった。

引用:青空文庫
http://www.aozora.gr.jp/

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