「あなた様は私共の恩人でございます。どうかくれぐれもお
からだを大事になされて下されませ。」そして馬は丁寧にお
じぎをして向こうへ歩いて行きました。
ホモイは何だか嬉しいようなおかしいような気がしてぼん
やり考えながら、にわとこの木の陰に行きました。するとそ
こに若い二疋の栗鼠が、仲よく白いお餅を食べて居りました
がホモイの来たのを見ると、びっくりして立ちあがって急い
できもののえりを直し、目を白黒させて餅をのみ込もうとし
たりしました。
宮沢賢治「貝の火」より |
鳥はみんな興(きょう)をさまして、一人去(さ)り二人去(さ)り今はふくろうだけになりました。ふくろうはじろじろ室(へや)の中を見まわしながら、
「たった六日(むいか)だったな。ホッホ
たった六日だったな。ホッホ」
とあざ笑(わら)って、肩(かた)をゆすぶって大股(おおまた)に出て行きました。
それにホモイの目は、もうさっきの玉のように白く濁(にご)ってしまって、まったく物が見えなくなったのです。
はじめからおしまいまでお母さんは泣(な)いてばかりおりました。お父さんが腕(うで)を組んでじっと考えていましたが、やがてホモイのせなかを静(しず)かにたたいて言(い)いました。
「泣(な)くな。こんなことはどこにもあるのだ。それをよくわかったお前は、いちばんさいわいなのだ。目はきっとまたよくなる。お父さんがよくしてやるから。な。泣(な)くな」
窓(まど)の外では霧(きり)が晴(は)れて鈴蘭(すずらん)の葉(は)がきらきら光り、つりがねそうは、
「カン、カン、カンカエコ、カンコカンコカン」と朝の鐘(かね)を高く鳴(な)らしました。
引用:青空文庫
http://www.aozora.gr.jp/ |
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