清作は、さあ日暮れだぞ、日暮れだぞと云いながら、稗の根もとにせっせと土をかけて
いました。
 そのときはもう、銅づくりのお日さまが、南の山裾の群青いろをしたとこに落ちて、野
はらはへんにさびしくなり、白樺の幹などもなにか粉を噴いているようでした。

                        宮沢賢治「かしわばやしの夜」より
安比高原の「シラカバ」
作品ID43759

「雨はざあざあ ざっざざざざざあ
 風はどうどう どっどどどどどう
 あられぱらぱらぱらぱらったたあ
 雨はざあざあ ざっざざざざざあ」
「あっだめだ、きりが落ちてきた。」とふくろうの副官が高く叫びました。
 なるほど月はもう青白い霧にかくされてしまってぼおっと円く見えるだけ、その霧はまるで矢のように林の中に降りてくるのでした。
 かしわの木はみんな度をうしなって、片脚かたあしをあげたり両手をそっちへのばしたり、眼をつりあげたりしたまま化石したようにつっ立ってしまいました。
 冷たい霧がさっと清作の顔にかかりました。かきはもうどこへ行ったか赤いしゃっぽだけがほうり出してあって、自分はかげもかたちもありませんでした。
 霧の中を飛ぶ術のまだできていないふくろうの、ばたばたげて行く音がしました。
 清作はそこで林を出ました。柏の木はみんなおどりのままの形で残念そうに横眼で清作を見送りました。
 林を出てから空を見ますと、さっきまでお月さまのあったあたりはやっとぼんやりあかるくて、そこを黒い犬のような形の雲がかけて行き、林のずうっと向うの沼森のあたりから、
「赤いしゃっぽのカンカラカンのカアン。」と画かきが力いっぱい叫んでいる声がかすかにきこえました。

引用:青空文庫
http://www.aozora.gr.jp/

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