「かたつむりさん。気分がよくなったら一つ相撲をとりま
しょうか。ハッハハ。久しぶりです。」となめくじが云い
ました。
「おなかがすいて力がありません。」とかたつむりが云い
ました。
「そんならたべ物をあげましょう。さあ、おあがりなさい」
となめくじはあざみの芽やなんか出しました。


宮沢賢治「蜘蛛となめくじと狸」より
安比高原の「ノアザミ」
作品ID4602

「そこで狸は云いました。
「みんな山ねこさまのおぼしめしじゃ。お前がお米を三升もって来たのも、わしがお前に説教するのもじゃ。山ねこさまはありがたいお方じゃ。兎はおそばに参って、大臣になられたげな。お前もものの命をとったことは、五百や千ではくまいに、早うざんげさっしゃれ。でないと山ねこさまにえらい責苦せめくにあわされますぞい。おおおそろしや。なまねこ。なまねこ。」
 狼はおびえあがって、きょろきょろしながらたずねました。
「そんならどうしたら助かりますかな。」
 狸が云いました。
「わしは山ねこさまのお身代りじゃで、わしの云うとおりさっしゃれ。なまねこ。なまねこ。」
「どうしたらようございましょう。」と狼があわててききました。狸が云いました。
「それはな。じっとしていさしゃれ。な。わしはお前のきばをぬくじゃ。な。お前の目をつぶすじゃ。な。それから。なまねこ、なまねこ、なまねこ。お前のみみを一寸ちょっとかじるじゃ。なまねこ。なまねこ。こらえなされ。お前のあたまをかじるじゃ。むにゃ、むにゃ。なまねこ。堪忍かんにんが大事じゃぞえ。なま……。むにゃむにゃ。お前のあしをたべるじゃ。うまい。なまねこ。むにゃ。むにゃ。おまえのせなかを食うじゃ。うまい。むにゃむにゃむにゃ。」
 狼は狸のはらの中で云いました。
「ここはまっくらだ。ああ、ここに兎の骨がある。たれが殺したろう。殺したやつは狸さまにあとでかじられるだろうに。」
 狸は無理に「ヘン。」と笑っていました。
 さて蜘蛛はとけて流れ、なめくじはペロリとやられ、そして狸は病気にかかりました。
 それはからだの中にどろや水がたまって、無暗むやみにふくれる病気で、しまいには中に野原や山ができて狸のからだは地球儀ちきゅうぎのようにまんまるになりました。
 そしてまっくろになって、熱にうかされて、
「うう、こわいこわい。おれは地獄じごく行きのマラソンをやったのだ。うう、切ない。」といいながらとうとうげて死んでしまいました。

        *

 なるほどそうしてみると三人とも地獄行きのマラソン競争をしていたのです。

引用:青空文庫
http://www.aozora.gr.jp/

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